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徒然日記62

見栄晴
 高校生の頃、学校帰りに友達と遊びに行った時に山手線で『見栄晴』を見かけたことがある。
 別に興味がないので詳しくは知らないが、彼は芸能人だ。

 地味に吊革に揺られていた見栄晴だったが、ある女子高生の集団が彼を発見してしまった。
 「あれ、見栄晴じゃね?」などと仲間内で話し合っているが、声がデカイので本人にも丸聞こえである。

 「マジで?!」と、他の女子高生も興味を示したまでは良かったが、その後がダメだった。

 「えー、キモいんですけどー!」

 声デカ過ぎるだろー! しかも、もっとオブラートに表現してやれよ!と思いつつも、俺としても別にどーでも良かったのだが、次の駅で見栄晴はそそくさと電車を降りて行ってしまった。
 元気かな、見栄晴?

 えーっと、今日は見栄晴についての日記ではありません。
 本題は、ついつい見栄を張ってしまう、ちっぽけな人間の様について書いてみたいと思います。


 日本に帰国してしばらく経ってから、俺はあることに気が付いちゃいました。

 財布を持っていない・・・ということに。

 基本的に旅行中は、金は剥き出しでポケットに突っ込んでいた俺だが、日本ではちょっと格好悪いんじゃねーか?と思い始めたわけです。
 そういえば・・・まだ金があった頃に某有名ブランドの財布を使っていたような気がして探してみたのだが、無い。

 よくよく考えてみたら、南アフリカで酔っ払って“運転免許証共々失くした”のを思い出してしまった。
 あの時は、『運転免許証を失くした』ということにショックを受けて、財布を失くしたこと自体にはそんなにショックを受けた記憶がないが、金がない今となっては「おい、あの財布はけっこう高かったんだぞ!」と2年半ぶりに思い出して悔しがったのでした。
 その時の財政状況によって、人間としての器も比例して小さくなっていく良い例ですね。

 無いものは仕方がないので、新たに財布を買ったわけです。
 あれ? 買ってもらったんだっけ?
 まぁ、いーや。 とにかく、新しい財布を持ち歩いていた俺だったが、ある時にフッと「これって格好悪いんじゃねーか?」と、ついつい見栄を張りたくなっちゃったのです。

 何が?って、俺の財布をパカッと開くと、カードを入れる場所がスッカラカンなわけ。
 キャッシュカードを持ち歩くのが嫌いな俺は、クレジットカードを1枚しか財布に入れていないのだが、妙に寂しい感じがする。

 SCBのゴールドカードも、有効期限が切れたから2枚共シュレッダーで切り刻んでやったせいで、改めてタイに行かない限り再発行できない。
 おかげで、10年くらい前に日本で作ったセゾン・カード1枚しかないのである。
 作ったものの、ほとんど使ったことがないセゾン・カードだが、カードにでっかく『SAISON』と書いてあり、なんか格好悪い。
 しかも、財布にはこのカード1枚しか入っていないわけである。

 これでは貧乏臭いではないか!
 まぁ、本当に貧乏だから見栄を張る必要はないのだが、ここは対外的にビシッと見せ付けてやらねばなるまい。

 コンビニに行って、支払いの時に財布をパカッと開いたとしよう。
 カードを入れる場所には、カードが1枚しか入っておらず、しかも入っているのは『SAISON』・・・
 なんか、これってレジの子に対して格好悪いんじゃないか?と思ったわけです。

 そこで! ガラガラなカード・ホルダーを、カードで一杯に埋めてやることにしました。
 俺だってねぇー、カードくらい沢山持っているわけですよ!

 まずは・・・タイの社会保険証だ!
 クレジットカード大でプレスチック製なので、レジのお兄ちゃんもクレジットカードと見間違えるかも知れん、グヘヘヘ。
 カードにはタイ語でしか表記されていないので、万が一「じゃぁ、支払いはカードで」と出しても分からないはずだ。
 有効期限も仏暦で書かれているので、大抵の日本人には逆算できないことも強みである。
 有効期限は仏暦2549年・・・とっくに2年前に切れてるぅー!

 続いては、ネガラインドネシア銀行のキャッシュカードだ!
 インドネシア国営銀行のカードだぞ。 表にはでっかく『PLUSカード』という意味の『KARTUPLUS』と書かれているが、CirrusやMaestroのマークも入っているので、「ちょっとお洒落なデビットカード」くらいの認識を持たれるだろう、グヘヘヘ。
 有効期限は・・・5年前に切れてるぅー!

 まだまだあるぞ、FNBのデビット機能付キャッシュカード!
 南アフリカのファースト・ナショナル・バンクですよ?! ちょっとインターナショナルな雰囲気を醸し出すにはバッチリと思われるが、口座維持費を払っていないので、とっくの昔に口座自体が消滅しているはずだ。

 ケープタウンに、『African Express』という『American Express』のパクリの旅行会社があったが、(あるか知らんが)あそこのゴールドカードを持っていたら、俺の“インターナショナルっぽさ”にさらに磨きがかかって、金持ちなんだか貧乏なんだか分からないステイタスを手に入れていたはずである。

 最後は・・・ヨドバシカメラのゴールドポイントカードだ。
 ゴールドですよ?!
 ちょっとこれ、凄いステイタスなんじゃないの?
 「次はプラチナ狙っちゃうよ!」みたいな位置なんじゃないの?


 まぁ、こんな感じで財布をカードで埋め尽くしてやったわけです。
 ただ・・・カードで一杯にした状態で、尻のポケットに財布を入れて座ると、お尻がグニってなって、違和感にイライラしちゃうんですけど。

 見栄を張るのもすっきりとはいかないもんですね。


 あとは、会話の中で見栄を張っちゃう瞬間もあります。

 途中から参加した会話の話題が、「CB4がどうたらこうたら」とか、「XJR1300がどうたらこうたら」とか、何の会話をしているのか分からないのについつい話に加わってしまったりして。

 「こ、これはガンダムの話題なのだろうか? それともバイク? それともそれともカメラの機種? 意外と戦闘機の型式?」などと、頭の中でグルグルと『?』マークが乱舞しているにも関わらず、既に話の輪の中に入ってしまっているので、今更聞くにも聞けず、緩やかに話の輪からフェードアウトしていくことに全力を傾けていたにも関わらず、藪から棒に「お前は?」とか意見を求められちゃったりして・・・

 ついつい見栄を張って、「俺? やっぱフルアーマーのΖガンダムかなぁー・・・」と言ってしまったら最後、『今まで会話に「うん、うん」頷いていたお前は何だったんだ?!』ということになって、緩やかどころか、突然に輪の中から追い出されてしまうわけです。

 ただ、これは見栄を張ってしまった俺だけではなく、会話をしている人たちにも問題があったわけです。
 「バイクのCB4が・・・」とか、「バイクのXJR1300が・・・」とか、枕詞として何の会話をしているのか付けて話してもらえば、俺も見栄を張る必要がなかったわけだし。

 そもそもが、「F2」とか「F22」とか、知る人にしか通じない暗号で会話をされると、ついつい見栄を張って「俺はF222かなぁー・・・」とか言ってしまうのは人間の性でしょう?
 やっぱりきちんと略さず、「カメラのニコンFシリーズのF2」とか、「戦闘機のロッキード・マーティン社製のF22」とか言ってもらわないと。


 もしかして、俺は見栄っぱりなんじゃないだろうか?




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