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徒然日記37


16才の無鉄砲(韓国編)
 中国の威海という町から、船に乗って韓国の仁川に向かった。

 船はもちろん、一番運賃が安い三等室の雑魚寝部屋を選んだ。
 隣の人が韓国人だったのだが、漢字を使った筆談で会話をして、俺が日本人だと知るとその人は「ちょっと待っていろ」と、どこかに消えていった。
 連れて来たのは社長さんで、俺の隣の人はその社長の秘書であった。

 その韓国人社長は、日本語を話せた。 日本から中古船を韓国に輸入するビジネスをしていると言っていた記憶がある。
 「16才が何でこんな所にいるんだ?」という話になり、「いやー、なんとなく・・・」と答えると、「韓国にいる間は俺に任せろ!」ということになった。

 仁川に着くと、社長がソウルまで送ってくれた。
 そして、なぜか俺はそのまま社長と一緒に商談に連れて行かれたのだった。
 「なんちゃらセヨ〜」と、社長同士は韓国語で商談をしているが、俺は会話が分からんから全く面白くない。 二人の間に座って、一人で黙々とケーキを食べていた。

 その日、社長は釜山に帰らなければいけないらしく、俺はソウルに残って観光していくことにした。
 ガイドブックで見付けた宿の住所を見せて、「ここに行きたいんじゃい!」と言うと、タクシーで連れて行ってくれた。
 が、社長は最後まで不満そうであった。

 俺も後から知ったのだが、その宿は旅館という名前が付いているが、ただのラブホであった。
 夜になると、あっちの部屋から、こっちの部屋から、「気持ちいいゼヨ〜」と悩ましい喘ぎ声が漏れてきて、16才の俺の精神衛生上としては甚だ不健康な宿であった。
 しかも、俺が泊まった部屋はその宿で一番安い部屋で、場所は『階段の下』。 一応、ドアが付いていて個室にはなっているのだが、天井がもの凄い角度で斜めだし、部屋では立つことすら出来ない。
 誰かが階段を上り下りすると、全く眠れなくなるのだ。
 社長が不満だった意味がようやく分かった。

 これが俺がソウルで泊まった部屋だ。

 ちなみに、16才にとって韓国が面白かったか?と言われれば、大して面白くなかった。
 インパクトでは中国で受けた衝撃とは比較にならなかった。 ソウルの地下鉄は、オリンピックを機に造られたらしいが、使いやすく清潔で、北京のそれとは全く違った。 街中で所構わずツバを吐きまくる人もおらず、ガニ股でパンツを見せびらかしながら座っている人もいない。

 そこで、唯一面白そうだった『板門店ツアー』に参加した。
 北朝鮮との軍事境界線(38度線)上にある場所で、目の前に北朝鮮が見れると言う。
 石とか投げて挑発したら面白いことになるかも、グヒヒヒ・・・と思いながら、ツアーに申し込んだのだが、思っていた以上に厳しかった。
 まず、「当日はジーパンは履いてこないで下さい」と言われた。
 理由は、「ジーパンは作業着であり、労働者の服装です。 それを着て板門店に行くと北朝鮮側に『韓国は労働着しか着れないくらい貧乏だ』という宣伝に使われるのでホワイト・カラー的な服装でお願いします」というものであった。

 ・・・・・く、くだらねー!!

 だが、こんなレベルでは終わらなかった。

 当日、日本語ガイド・ツアーに参加したので、バス1台分の日本人たちと一緒になった。
 バスは、地雷原を抜け、戦車止めを抜け、北朝鮮との最前線『板門店』についた。
 ここで日本語を話すガイドさんから注意があった。
 「北朝鮮を指差さないで下さい」
 えー! 石投げるどころではない厳しさである。

 そんな俺の不満を感じ取ったのか?ガイドさんはこんな話をしてくれた。
 「(俺がツアーに参加した1週間前の)10月16日に、北朝鮮のゲリラが板門店から侵入し、1人は捕まったが、もう1人は捕まっていない。 そのため、22日までのツアーは全てキャンセルされており、今回は再開されて初めてのツアーだ」

 ・・・・・そ、それは石を投げて挑発しない方がいいですね。
 これからは大人しくガイドさんの言うことを聞くことにしよう。

 ツアー・グループには、韓国軍の兵士が護衛に付いた。
 ガイドさんが、「何かあった場合は、この兵士が命に代えてお守りいたします」と言っていたが、「それは大袈裟だろう」と16才は密かに思っていた。
 『護衛』と言うと聞こえはいいが、本当は『見張り』だろう。
 ツアー参加者が、北朝鮮に石を投げたり、いきなり亡命したりしないように付いて来ているに決まってる。
 どうせ、引率の先生みたいなもんだろう?

 板門店では、目の前に北朝鮮の兵士たちがいる。 石を投げたら当てれる距離である。
 軍事境界線(38度線)の上には、建物が建っている。
 『軍事停戦委員会本会議場』という長ったらしい名前だが、ようは軍のお偉いさんたちが会議をする場所だそうだ。
 その建物の中だけは、38度線を越えて北朝鮮に入れる。
 だから、一応は俺も北朝鮮には入ったことがある。

 この会議場内も、一応は韓国側と北朝鮮側に分かれている。
 長テーブルが置かれているのだが、テーブル上のマイクのコードが38度線になっていた。


 そして、別のテーブルには国連と北朝鮮の卓上旗がそれぞれ置かれていた。

 ガイドさんによると、「国連の旗のポールの方が、北朝鮮のそれと比べて少し太くなっています。 逆に北朝鮮の国旗のポールの方が、国連のそれと比べて少し高くなっています」と説明があった。
 あー、本当だ!!
 理由は・・・「以前、国連と北朝鮮で旗の高さを競いあったら、天井についてしまったので、今は国連の方が太く、北朝鮮の方が高くなっています」

 ・・・・・く、くだらねー!!

 大人たち、しかも国連の考えることとはとても思えん。
 「競っていたら天井についちゃった・・・」というのと、「学ランの短さを競っていたら、袖部分だけになっちゃった・・・」というのとでは何が違うんだ?


 写真の青い建物が、何ちゃら会議場である。
 建物の真ん中辺りに見える、コンクリートのぽっこりしたラインが38度線で、それよりも向こう側が北朝鮮だ。
 『かくれんぼ』中ですか?みたいな格好をして、全ての建物の角にいるのは韓国軍兵士である。 北朝鮮を見張っているらしいが、他に見張り方はなかったのかな?
 出来れば、北朝鮮側から彼らを見てみたい気がする。

 ソウル観光を終え、長距離バスで釜山に向かった。
 釜山では社長が待っており、飯を食わせてもらったり、泊めてもらったりしたみたいだ。

 釜山からは船で下関に帰国し、入管管理のおっさんに「16才で1人!?」と質問攻めにあったものの、無事に帰国を果たした。
 下関からは、北九州の門司まで移動して、そこから大阪までフェリーで1泊2日で行き、京都から夜行バスで1泊2日で東京まで戻って来た。


 よく聞かれるのが「1人で心配ではなかったか?」という質問だが、意外に海外に行ってしまえば非現実的な感じがバーチャルな世界になって、ものすごーく大変なことが起っていても現実感がなくて変な気分だった。
 ゲームと一緒である。

 行く前も、そもそも心配することに意味があると思えないので、そんなに深く考えなかった。
 経験したことがないことをこれからやろうとしているのに、それについて色々と考えたところで、そんなものは憶測に過ぎないから意味がない。 それに色々と憶測したところで、ネガティブな考えしか思いつかないのであれば、やはり意味がない。
 「こんなことや、あんなことが起ったらどうしよう?」とか、起ってから考えればいい話で、行く前に考えたところで答えが出るわけがないのだから。

 ようは、深く考えずに行っちゃったのだ。

 そして、「海外なんて何とかなるもんだ」という変な自信だけを身につけて帰ってきた。
 この「成るようになる」というスタンスは、この頃から今まで変わっていない。

 そして、この旅が俺に与えた衝撃は大きかった。
 「もっと色んな世界を見てみたい」という興味が沸々とわき上がってきた。
 すでにこの頃には反抗期を過ぎていたが、過去の自分も含んで「俺は井の中の蛙だったのではないか?」とすら思えてきた。
 中学、高校と調子に乗っていた時期もあったが、それは狭い枠の中で調子に乗っていただけであって、枠の外に出てみたら自分はちっぽけであった。

 例えば・・・
 今でも思うのだが、暴走族みたいに「俺って、あんなことやこんなことをして悪い奴」みたいに思ってる人がいれば、ヨハネスブルグのスラム街に行けばいいと思う。
 その人の“悪い”レベルが、ヨハネスでも通用するかは?別だ。
 暴走族で調子に乗ってる人も、ヨハネスのスラム街ではただの餌食である。 そんなに走りたいのであれば、夜のヨハネスブルグを走ってみればいいのだ。
 無事に帰ってこれるか?は知らんが。
 「全国制覇」を目指すのは、とりあえず北斗の拳の世界のソマリアの小都市を『制覇』してからにすればいいのだ。
 生きて帰ってこれればの話だが。

 つまりは、それが良いか悪いかという話を抜きにすれば、それまでの物事の尺度が、大きくいえば日本の尺度、小さくいえば自分の周りの尺度でしかないことに気付いてしまった。

 あとは、集団の一員であることの安心感である。
 日本にいる時は気付いていなかったが、無意識のうちに何らかの集団に属していることへの安心感があった。
 だが、周りを全て中国人に囲まれた状態で、どの組織に属しているわけでもない一人アウェイでは結局は自分個人である。
 結局、「日本人である」こと以外は何らかの組織に帰属していることには意味がなかった。

 この翌年、17才になった俺は再び外国に出る。




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